物体光の計算法

計算機合成ホログラムにおける物体光の計算法には、大きく分けて点充填法とフーリエ変換を用いる方法の2つの計算法があります。



物体光の計算:点充填法





物体の表面を点光源で覆い、計算する方法です。
 ● 利点:どのような形の物体でも表現可能
 ● 欠点:膨大な点の数に比例して、計算時間も膨大になる

最近では、GPU(Graphics Processing Unit)や専用ハードウェア、並列計算などの手法が提案されており、計算時間の問題も改善されてきています。
数式などの詳細を以下に掲載します。

物体を構成している点光源\(i\)の座標を\((x_i, y_i, z_i)\)、振幅を\(a_i\)、位相を\(\phi_i\)とすると、この点光源のホログラム面上での複素振幅は、

\( u_i(\xi,\eta) = \frac{a_i}{r_i} \exp\{-j(kr_i+\phi_i)\} \)

で表せます。\(r_i\)は点光源\(i\)とホログラム面上の点\((\xi,\eta)\)との距離であり、

\( r = \sqrt{(\xi-x_i)^2 + (\eta-y_i)^2 + {z_i}^2} \)

で表せます。よって、物体を構成する点光源の数を\(N\)とすると、物体全体からの光\(u(\xi,\eta)\)は、以下の式で表せます。

\( u(\xi,\eta) = \sum_{i=1}^N u_i(\xi,\eta) \)



物体光の計算:フーリエ変換を用いる方法





入力物体をホログラム面と平行な平面に限定することで、物体光の計算にフーリエ変換を用いる方法です。
 ● 利点:高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)で処理できるので、比較的高速に計算できる
 ● 欠点:入力物体の制限

最近では、ホログラム面と並行ではない平面を入力とする方法も提案されており、複雑な物体の表示も可能になってきています。

フーリエ変換を用いる方法には、大きく分けて以下の3つの方法が存在します。
 ● フレネル回折を利用する方法
 ● フラウンホーファー回折を利用する方法
 ● 角スペクトルを利用する方法



フレネル回折を利用する方法





フレネル回折では、\(r\)を以下のように\(x,y\)の2次の項まで近似して、計算します。
\(z_0\)は物体面とホログラム面との距離を表しています。

\( r = \sqrt{(\xi-x)^2 + (\eta-y)^2 + {z_0}^2} \)
  \( \approx \frac{(\xi-x)^2}{2z_0} + \frac{(\eta-y)^2}{2z_0} + z_0 = \frac{\xi^2+\eta^2}{2z_0} - \frac{\xi x+\eta y}{z_0} + \frac{x^2+y^2}{2z_0} + z_0 \)

この式を、上記のフレネル・キルヒホッフの回折積分に代入し変換すると、以下の式を得ることができます。

\( u(\xi,\eta) = \frac{j}{\lambda z_0} e^{-jkz_0} \iint_{-\infty}^\infty g(x,y) p(\xi-x,\eta-y) dxdy \)
      \( = const\{ g(\xi,\eta) * p(\xi,\eta) \} \)

ただし、\(p(\xi,\eta)\)は伝達関数であり、

\( p(\xi,\eta) = \exp \{ -j \frac{k}{2z_0} (\xi^2+\eta^2) \} \)

で表すことができます。\(*\)は畳み込み積分を表しています。
畳み込み積分は高速フーリエ変換を利用して高速に計算することが可能なので、全体として高速な物体光の計算が実現できます。



フラウンホーファー回折を利用する方法





フラウンホーファー回折では、\(r\)をフレネル回折からさらに近似し、以下のように\(x,y\)の1次の項まで近似します。

\( r \approx \frac{\xi^2+\eta^2}{2z_0} - \frac{\xi x+\eta y}{z_0} + z_0 \)

フレネル回折と同様に、この式をフレネル・キルヒホッフの回折積分に代入し変形すると、以下の式を得ることができます。

\( u(\xi,\eta) = \frac{j}{\lambda z_0} e^{-jk \frac{\xi^2+\eta^2}{2z_0} } \iint_{-\infty}^\infty g(x,y) \exp \{ j \frac{k}{z_0} (\xi x+\eta y) \} dxdy \)
      \( = const F^{-1}[ g(x,y) ] \)

\(F^{-1}\)はフーリエ逆変換を示しています。
このようにフラウンホーファー回折はフーリエ逆変換の形で表すことができるので、高速フーリエ変換を利用して高速な計算が可能になります。



角スペクトルを利用する方法





角スペクトルを利用する方法では、以下の手順で物体光を計算します。

 1. 伝搬前の物体面における光波を平面波に分解する
 2. それぞれの平面波の伝搬計算を行う
 3. 伝搬後の平面においてそれらを重ね合わせる

これらの手順は、それぞれ以下の式で表すことができます。

\( G(f_\xi,f_\eta) = \iint_{-\infty}^\infty g(x,y) \exp \{ -2\pi j(xf_\xi + yf_\eta) \} dxdy \)
\( U(f_\xi,f_\eta) = G(f_\xi,f_\eta) \exp (-2\pi jf_z z_0) \)
\( u(\xi,\eta) = \iint_{-\infty}^\infty U(f_\xi,f_\eta) \exp \{ 2\pi j(\xi f_\xi + \eta f_\eta) \} df_\xi df_\eta \)

また、\(f_z\)は\(z\)軸方向の空間周波数成分を表しており、以下の式で表すことができる。

\( f_z = \sqrt{ \frac{1}{\lambda^2} - f_\xi^2 - f_\eta^2 } \)
1の処理と3の処理はそれぞれフーリエ変換とフーリエ逆変換で処理できます。 さらに2の処理はあまり計算時間を要しないので全体として高速な計算が可能になります。



それぞれの方法の違い





フレネル回折とフラウンホーファー回折は近似を用いており、その近似を用いることができる領域は限られており、以下の図のようになります。 物体とホログラム面が非常に近い領域(図の青い部分)は、近接領域と呼ばれどちらの近似も使うことができません。



角スペクトルを用いた方法は、伝搬距離に対する制限がないことや、近似誤差によるノイズの発生の危険性がないことが利点となっています。